「・・・ねぇ明美、私のほっぺつねってみて。」
「えぇ!!?そ、そんなことできないよぉ・・・」
下校時、どもった頼りない声で明美はそう返事をした。
・・・私の元気がないとき、明美はいつもほっぺをつねってからかってきた。
こんなの・・・逆に落ち着かない。
自分でほっぺをつねってみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痛い。
どうやらやはり夢ではないらしい。
そうか・・・私は鏡の中で幽霊を見ていたんじゃない。
この世界の人たちを見ていたんだ・・・
となると、問題はどうやって元の世界に帰るか・・・
こんな私の常識が通らない世界で一生を過ごすのはごめんだ。
本当はまた踊り場の大鏡のところに行きたかったが、明美が何かと私の行動を制止するので今日のところは下校することに落ち着いた。
・・・・・・家は・・・両親は・・・どうなっているんだろう・・・
明美と別れ、家のドアに手をかけ、開ける。
「・・・・・ただいま・・・・」
なるべくいつもと変わらないように、声をかけてみる。
「!!よ、夜見子・・・!? ・・・・きょ、今日は早いのね・・・」
「そ、そうだな・・・今日は帰らないかと思っていたよ」
声が怯えている。こちらの夜見子は家でも問題児らしい。
自分の部屋に入ってみる。
部屋に置かれているものは明らかに私のものであったが
ある程度予想していた通り、ひどく雑然としていた。
「寝る場所ですら物で溢れてる・・・」
嘆きつつ物を掻き分けながら、なんとか勉強机のところまでたどり着くことが出来た。
とはいってもその勉強机の上も物で溢れかえっているわけだが・・・
何気なく右の壁を見てみる。
そこには、木の枠にはめられた丸い鏡がかかっている。
よかった・・・この鏡はいつも通りなんだ・・・
この鏡は祖母から受け継いだもので、木の枠の彫刻が綺麗だったので幼いころはよく魔法の鏡だと騒いだものだ。
不思議と、この鏡にだけは幽霊の姿は映らなかった。
考えてみれば当たり前である。
ここは私の部屋で、そしてそのこちらの私の生活習慣が私と全く逆なのだからかち合う可能性もほとんどないのだから。
その鏡をじっと見つめてみた。
・・・鏡は不思議だ。映るのは鏡を見る自分の姿と自分の目でも見ている風景だけのはずなのに、何故だか違う世界を見ているような気分になる。
ふと鏡の汚れに気がついて、指でそれを拭こうとした。
「!!?え、うそ・・・・・・」
鏡に、波紋が広がった。
もう一度、鏡面に触れてみる。
それに呼応するかのように、鏡面に波紋が浮かんでいる
・・・もしかして・・・問題だったのは鏡の方じゃなくて私の方・・・・・・・・?
まさか私、鏡の世界を行き来できる能力を持ってるの・・・!?
自分の指をじっと見つめる。
確かに昔からこちらの世界は見えていたけれど、あの夜の雰囲気からして大鏡の方がその力を持っていたと思っていたのに・・・
だが、これは好都合だ。
鏡さえあればいつでもどこでも世界を行き来できる。
元の世界に帰れるのだ
そこまで大きくもないこの鏡でも世界を渡れるのか不安はあったが、思い切って手を突っ込んでみた。
するとあの時と同じように光が私を包み込んで・・・!
「った~・・・あーもう何々ぃ!!?」
下の方から声がする。この声は・・・
「明美ぃぃ~~~~~~っ!!!!!」
思わず抱きついていた。
同じ人物でも、性格が違うとこうも声が変わるものなのか。
いつもの明美がそばにいる安心感を自分が感じたことに驚きを感じたが、不思議と納得をしてしまう自分もいた。
「夜見子、いい加減苦しいから」
「あ・・・ごめん」
「夜見子最近変だよー?いきなり悪態つくようになったかと思ったら今度は抱きつくしさ」
「ご、ごめんごめん」
「ま、いつもの夜見子に戻ったならいいけどさ」
・・・しばらく鏡には近づかないようにしよう
明美を心配させたみたいだし、こちらでの汚名挽回もしなければならないようだし。
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-指先のほんの一振りで、世界は180度変わることがある。-
-これは、鏡の表と裏の、無限の可能性の話-
その第3話。