No.100192

連載小説31〜35

水希さん

第31回から第35回

指摘いただきましたので、五回刻みで投稿して行きます。

2009-10-10 20:46:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:459   閲覧ユーザー数:454

私は、とりあえず思いつくまま小説を書き続けていた。

もちろん、これが小説と呼ぶに値するのかどうかは分からないのだが。

 

 

『お昼休みが終わり、私は友人達としゃべっていた。主な話題は、

なぜか私の事についてだった』

 そのまんまでいいのかなぁ…なんか、ますますプライバシーを切り売りしてる気がして来た…

「ふぅ…」

 ちょっと鉛筆を置いて一段落…

「ん、倉橋さん休憩?」

「まあね」

 やっぱり難しいなぁ。プライバシーの切り売りも、もっと上手かったら。

必要なかったり違和感なかったりするんだろうし…

「木谷さんて、お話書く時にプライバシーを切り売りしたりする?」

「プライバシーの切り売り? あぁ、自分の事をネタにするって事ね」

 ちょっと考え込んだ様子の木谷さんは、すぐに話を返してくれた。

「そうね…そういう事もある、というか…主人公には必ず自分の一面を、

ていう風に意識してやってるから…」

「じゃあ、あるいみ毎回切り売りなんだ」

 て事は…気にしなくてもいいのかな。

「あぁそっか、今日の木谷さんを物語にしてるんだっけ。それは気にするかもね」

「そうそう。でも、木谷さんも切り売りしてるって聞いて、ちょっと安心」

 それならいいか。私が切り売りするなんて、普通だよねっ!

「じゃ、続けようかな」

 私鉛筆を手に、再び作り始めた。

 

 

~つづく~

小説は続いていた。

 

 

『昼休み、同中の友人が、お弁当を持ってやって来た。「ごはん食べよー」

いつもやって来るその友人は、非常にのん気だ』

 あれ? のん気って、せっかくだから難しく漢字で書きたいぞ?

「えーっと…」

 こんな時は、携帯電話様だ。

「のんきのんき、と」

 なるほど、「暢気」か。

『ーーその友人は、非常に暢気だ』

「あれ? 倉橋さん、ケータイ…」

「ん? どうしたの? あ、まさか、部活中はケータイ禁止ですか?」

「そういう事ではないのだけれど…携帯電話を辞書代わりに使うのが、

目新しいと言うか…なんというか…」

 部長さんの説明は、どうやら木谷さんの気持ちとリンクしているらしかった。

「私達は、辞書を使うのよ。それに、文芸部に籍を置く人間として、

周りの同世代の人間に比べて、漢字は知っているつもりだから…」

 おぉ!

「木谷さん、すごいね。人間辞書?」

「そ、そんなんじゃないわよ。ただ、最低限漢字を知ってないとね…」

「木谷さんの言う通りね。何も、人間辞書、なんていうレベルじゃないわ。

ただね、知ってて当たり前レベルの漢字を知らないと言うと、それは…

恥ずかしい事だから」

 うぅ…

「面目ないっす」

「いいんじゃない? これから精進していけば」

「そうね」

 うぅ…

「ありがとう木谷さん、ありがとうございます、部長さん」

 よし、私も!

 

 

一応、人間辞書になるべく決意を新たにするのであった…

 

 

~つづく~

小説作り、そして漢字に対する意識。

いろいろと学ぶ事があった。

 

『「それじゃあ、部活見学期間だから、しっかり見て選ぶように」

担任の先生の言葉に従って、私達は部室へと向かった。文学部だ。

「それじゃ、行きましょ」友人は言う。「うん」私は答える。

隣のクラスにいる友人は、既に運動部への見学を決めている。だから、

ここにはいない』

「ふぅ~」

 よし、いよいよ部室に入る所まで来たぞ!

「倉橋さん、一段落って感じね」

「まぁね。もうちょっとだし」

 という事は、もう少ししたら木谷さんに見せる事になるのか…

「お、いよいよ見られるのね? 楽しみだわ」

「せ、先輩まで」

 先輩にも、最初のアドバイス以来見せてない。だから、気になるんだろうな。

「だって、部員の作品はみんなで見るのよ? もちろん、私は部長と言う、

責任ある立場だから、評価を下す事もあるわ。当然よ」

「そ、そうなんですか…」

「あ、先輩」

 おや、木谷さんが挙手?

「なぁに? 木谷さん」

「私、部活見学期間中に終らなさそうなんですけど…」

 ひえぇ~~。なんて大作…

「いいわ」

「いいんですか?」

 私にはよく分からない。

「だって、あなたは正式に入部するんでしょう? それに、作品は、

完成させるのに時間がかかるものだもの」

「そっか、そうですよね…」

 な、納得してるし…

「というわけで倉橋さん、見せられるのは随分先になるけど、いいかしら」

「し、しょうがないよ…」

 私はそう答えるしか出来なかった。

 

 

どうやら、私と文学部との付き合いは、まだまだ続きそうだった。

 

 

~つづく~

意外なほど、本当に意外なほど、私は小説作りに没頭していた。

 

 

「…あら、もうこんな時間。二人とも、そろそろ終っていいわよ」

「え? あ、もう五時なんですねー」

「え? 気付かなかった…」

 辺りは結構暗くなってて、教室には蛍光灯が灯されてた。

「部活自体は六時までやってるんだけど、新入生は五時まで、ていうのが、

一応の決まりでねー」

 なるほどね。

「木谷さんなんかは期待の新星だし、倉橋さんも伸びシロがいっぱいありそうだし、

ここで返すのは惜しいんだけどね」

「あ、ありがとうございます。明日も来ますから、続き、作りますね」

「えっと…わたしも、でいいのかな?」

 帰宅部に徹するよりは、こっちの方が楽しいか。

「まだ決めかねてるんだとしたら、他の部活にも興味あるかと思うけど、

また来てくれたら嬉しいわ」

 ひょぉ~。部長さん、なんだろう、雰囲気が完成されてる…

「え、ええ、それでしたら」

「ありがとう! 嬉しいわ。それに、みんな、貴女を題材に作品が書きたいって、

そう言ってるのよ。是非」

 ひぇぇぇ~~~~~~。

「そ、それは、考えさせてくださいっ!」

 

そう答えるのが、精一杯だった。

 

 

~つづく~

部活見学初日が終わって、駅に向かう道中。

今日木谷さんと二人きりだ。

楓は別の部活に参加してるから、時間も別…らしい。

 

 

「倉橋さん、明日以降はどうするの?」

「んー? そうだなぁ…」

 正直悩んでいた。小説を作るのはいい。部長さん始め先輩達も、

いい人ばっかりだ。

「他に見たい部活もないし…それはいいんだけど…」

「あ、さっきの一言でしょ」

 図星なのだ。私を題材に小説? 冗談じゃない!

「ね、ねえ、木谷さん。そういうのって、普通なの?」

「身近な人を題材に、ていうのは珍しい事じゃないけど? 今回だと、

倉橋さんの雰囲気を元にキャラクターを作る、ていう感じだから…」

 ふむふむ。

「実際の倉橋さんとは違う感じになるかもね」

「そっか~。まんま私じゃないんだ…」

 そ、それならいいの…かな?

「疑問点があったら答えるから、前向きに考えてくれると嬉しいな」

「う、うん…」

 あ、そろそろ駅だ。

「じゃ、また明日」

「うん、明日~」

 ふぅ。

 

木谷さんと別れた私は、一人電車に乗り込んだ。

 

 

そういえば、一人って、初めてかも。

 

~つづく~


 
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