No.1001601

真・恋姫†無双-白き旅人- 第十九章

月千一夜さん

十九章
荊州編、本格始動

どうぞ、お愉しみください

続きを表示

2019-08-12 01:01:25 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2099   閲覧ユーザー数:2002

“まるで、子供の喧嘩みたいだ”

 

ここ数年、乱世の頃から、そして乱世が終わった後も続く荊州の情勢を誰かがそう言っていた気がする

もっとも、それはもしかしたら“自分”が言った言葉だったかもしれない

どちらにせよ、“彼女”の心の中を見事に表す一言であることはもはや疑いようのない事実であるのだから

もう、どっちでもいいことだ

 

乱世が終わり、もう三年も経とうというのに

この荊州を取り巻く状況は、驚くほどに変わらない

いや、むしろ酷くなっていると言ってもいい

“蜀”と“呉”の間での“話し合いという名の言葉での戦争”は、一向に決着をみない

どころか、そんな二国間に業を煮やした“魏”までもが介入し、もはや“ぐちゃぐちゃ”だ

 

本当に・・・

 

 

 

 

「子供かってぇの・・・」

 

 

そう言って、“彼女”は溜め息を吐き出す

その“白き眉”を微かに風に揺らし、不機嫌そうな表情のまま

 

 

「これじゃぁ、“三国同盟”なんて・・・あっという間に、崩れちゃうんじゃないの?」

 

 

言って、“くっだらないなぁ”と再び溜め息

見上げた青空が、妙に憎らしく見えてしまうのは

まぁ、仕方のないことだろう

 

“白き眉”の彼女

彼女は今、青々と生い茂る草原を歩いていた

供はいない

彼女は一人、唯一人で歩いていた

 

そんな彼女が考えることは、今彼女が歩いている土地のことである

 

“荊州”

 

三国の丁度中心に位置するこの荊州には未だ、解決されぬままの問題があった

それは、先ほど述べたとおりである

この土地の権利を、いったいどの国が持つか・・・そのことである

世がまだ乱世であった頃から続くこの問題は、未だに解決されることはなく

未だに、ズルズルと続いていたのである

 

“まるで、子供の喧嘩みたいだ”と

そんな国の姿を見て、彼女は・・・“白き眉”の彼女は思ったのである

同時に、“どうにかしなくては”と思ったのだ

 

しかし・・・

 

 

 

 

 

「・・・って、いくら私が悩んだとこで無駄だよな~」

 

 

そう言って、彼女は三度溜め息を吐き出した

今度は不機嫌そうな表情に加え、何処か泣きそうな表情だ

その手には、くしゃくしゃになった紙が握られていた

 

 

「“やっちゃったもんはしょうがねぇし”・・・はぁ」

 

 

どうやら、何か事情があるのだろう

しかし、その事情を気軽に聞けるような

そんな雰囲気でもない

 

そんな中・・・

 

 

 

 

 

「御嬢さん・・・何か、悩み事ですか?」

 

「・・・ん?」

 

 

ふと、彼女の耳に聞き慣れない声が響いたのだ

彼女は辺りを見渡すが、誰もいない

“空耳か?”と、眉を顰める彼女

 

 

「はっはっは、空耳なんかじゃないよ」

 

 

と、そんな彼女の姿に声は笑いながら言った

彼女は慌てて、もう一度辺りを見渡した

しかし、やはり誰もいない

 

 

「違うよ、そっちじゃなくって・・・もっと“下”さ」

 

「下?」

 

 

“下”と言われ、彼女は何となく自身の足元を見下ろした

すると・・・

 

 

「やぁ」

 

 

其処には、一人の“男”が“倒れていた”

白いフードを被っており顔はわからなかったが、声で男だと判断したのだ

他に特徴と言えば、何やら長い“杖”を持っていることだろうか

一言で言ってしまえば、かなり怪しい人物である

 

しかし、彼女が冷静に判断できたのは此処までだ

 

今、この怪しい男の状態はすでに言ったとおり

彼女の足元に倒れていたのだ

恐らくは生い茂る草のせいで、今まで見えなかったのだろう

だからこそ、彼女は気づけなかったのだ

気付かぬままに、“彼の顔スレスレの位置まで近づいてしまったのである”

 

さて、想像してみよう

 

立っている彼女

その彼女の丁度真下に、彼女を見上げるよう倒れる男

男の瞳に映る・・・“桃源郷”

 

男はやがてニコリと笑うと、こう言ったのだった

 

 

 

 

 

 

「結構な、お手前で」

 

 

 

 

 

 

瞬間

その男の顔面に思い切り、重く鈍い一撃が加えられたことなどは

 

もはや、言うまでもないことだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫

第十九章 始まるぜ、荊州!!!!~押すなよ!!?絶対に押すなよ!!!?~

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「誤解です・・・」

 

 

ボロボロになった、白いフードの男が放った最初の一言目だった

対して、そんな男をボコボコにした彼女の反応は冷めたものだった

 

 

「何が誤解だよ、この変態」

 

 

と、冷たく言い放つ始末だ

この一言に、男は慌てて“だから、違うんだって”と口を開く

 

 

「俺は、偶々あそこで昼寝をしてただけなんだってば!

本当だって!」

 

「だ~か~ら、それが怪しいんだよ!

こんな昼間から、たった一人で、昼寝するなんてなっ!」

 

「ひ、昼に寝るから昼寝なんです~~~!

そんな簡単なこともわからいんでぶふぅぅぅうっ!!?」

 

 

再び、放たれる一撃

モロに顔面に受け止め、彼の意識は吹っ飛びかけた

 

 

「つぅ・・・ぼ、暴力反対っ!!」

 

「煩い、この変態っ!!」

 

「だから、変態じゃ・・・」

 

 

と、まぁ

こんな言い争いが、しばらくの間続いていった

その間、男の体には生傷が増えていくのだった

 

そして、それから数刻後・・・

 

 

 

 

 

「はぁ・・・わかった、わかりました

ひとまず、落ち着こうよ」

 

 

と、そう言ったのは男のほうだった

彼は微かに乱れた息を整え、笑みを浮かべ言う

 

 

「はぁ・・・はぁ、誰のせいだよ」

 

 

と、彼女は男を睨みながら言う

それに対し、男は“まぁまぁ”と笑った

 

 

「君も、疲れたろ?

ほら、リラックスしてリラックス」

 

「りらっく・・・なんだ?」

 

 

男の言葉に、首を傾げる彼女

しかし、やがて溜め息を吐くとともに、“まぁ、いいか”と座り込む

男もまた、彼女のすぐ傍に座った

それから、彼女は未だ疑いの残った目を男に向ける

 

 

「で、アンタ・・・ホントに、昼寝だったのかよ?」

 

「本当だよ」

 

 

男は、そう言って笑う

 

 

「ちょっと“色々あってね”

まぁ、考え事しながら昼寝でもって思ってさ」

 

 

男の言葉

何故か、その言葉に嘘はないように彼女には聞こえた

故に、彼女は半ば呆れながらも“そうか”と呟く

 

 

「そういえば、まだお互いに名前も知らなかったね」

 

 

そんな中、男のこの一言に

彼女は頷き、男のことを見つめる

男はそんな彼女の視線に気付きながら、スッとその場から立ち上がるのだった

 

 

「俺の名前は“司馬懿”、字は“仲達”っていうんだ」

 

 

そして、男は・・・“司馬懿”は、また笑った

顔はフードのせいでよく見えなかったが、彼女はその男の笑みに嫌な感情を抱くことはなかった

“不思議な話だ”と、彼女は苦笑する

 

 

「“馬良”、字は“季常”だ」

 

 

彼女・・・馬良は、そう言って立ち上がった

立ち上がった彼女は、男とそう変わらないほどの身長だ

白い眉に、意思の強そうな瞳

その白い眉によく映える、長く灰色の髪

微かに残ったソバカスが、身長に対して何処か彼女を幼く見せている

そんな彼女、馬良は頭をガシガシと掻きながら口を開いた

 

 

 

「んで、アンタ・・・司馬懿だっけ?

どうして、こんなとこで昼寝なんかしてたんだよ」

 

「よくぞ聞いてくれましたっ!」

 

 

“うわぁ、びっくりした!”と、馬良

しかしそんな彼女の様子に、今度は気づくこともなく

彼は、大げさに、半ば半べそのままに続ける

 

 

「もう、あれだよ!

聞くも涙、語るも涙の長い長~~~いワケがあるんだよ、コレが!!」

 

「へ、へぇ~・・・」

 

 

ヒクヒクと、頬を引き攣らせる馬良

若干、引いている

ぶっちゃけ、今すぐこの場を離れたい衝動に駆られていた

しかし、それをグッと堪えてしまう辺り

彼女は、とても良い子なのだろう

 

 

「ん、んでさ、そのワケってのは?」

 

 

そして、話の続きを促すあたり、ますます良い子である

そんな彼女の優しさを知ってか知らずか、彼は涙を流しながら言うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷子になっちった」

 

「驚くほど短いっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

短かった

それはもう、彼女が声を大にして叫んでしまう程に短かった

 

 

「なんだ、なんなんだアンタ

アホなのか?

アホなんだな?

アホの上に、変態なんだな?

アホで変態で、アホな変態で、そしてアホの変態なんだな?」

 

「ちょ、待って

言い過ぎ、言い過ぎです馬良さん

僕のライフはもう0なの」

 

 

半泣きのまま、胸をおさえる司馬懿

彼はそのまま、気まずそうに口を開く

 

 

「いや、もう迷子っていうのも、“山から落っこちたのが原因”なんだけど

そのせいで、“皆ともはぐれちゃうし”・・・」

 

「山から落っこちたぁ?」

 

 

“そんな馬鹿な”と、驚く馬良もよそに

司馬懿は、“おまけに”と話を続けた

 

 

「荊州って、広いじゃない?

もう、いま自分がいる場所もわからない始末だよ・・・本当に、参った」

 

 

と、司馬懿は深い溜息と共に呟く

 

 

「そんで、進退窮まってここで昼寝してたと?」

 

「そう

昼寝、またはふて寝とも言うか」

 

 

“そうだったのか”と、馬良

彼女はしばし、腕を組み考え事をした後

“ま、いっか”と、苦笑した

 

 

「なら、近くの村まで一緒に来るか?」

 

「いいの!?

ていうか、この近くに村があったの!?」

 

 

司馬懿の言葉

彼女は、“ああ”と頷いた

 

 

「本当に小さな村なんだけどな

私は今、丁度その村に向ってるとこだったんだ」

 

「それは、助かるよ

もう、どうしようか困っていたんだ」

 

 

“助かった~”と、司馬懿は安堵の息を吐いていた

そんな彼の姿を見て、馬良は思わず笑ってしまう

“なんだ、妙に気持ちのいい奴だな”と、そんなふうに思いながら

 

 

 

 

「そんじゃ、行くぞ

ついて来な、“変態”」

 

「だから、違うって!!」

 

 

 

かくして、司馬懿と馬良は二人で共に村に向かうこととなったのだった

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「そういえばさ・・・」

 

 

と、司馬懿

馬良と共に村に向かう最中、司馬懿はふと思い立ったように口を開いたのだ

 

 

「ばりょタンは、その村に何の用事があったんだい?」

 

「おい

なんだその、キモい呼び方は」

 

 

“勘弁してくれ”と、馬良は表情を歪める

それから、何やら胸元に手を入れ小さく呟いた

 

 

「妹が、その村にいるんだ」

 

 

“妹”

それを聞き、司馬懿は表情を変えた

しかし、それも一瞬のこと

彼は、“そうだったんだ”と笑った

 

 

「妹さんが、その村にいるんだ

じゃぁ、その妹さんに会いに行くために村に向ってるんだね」

 

「ま、そんなとこだ」

 

 

馬良はそう言って、話は終わったとばかりに足を早める

それに合わせ、司馬懿も歩く速度を早めた

 

と、同時に口を開く

 

 

 

「村は、もう近いの?」

 

「ああ、そう遠くはねぇよ・・・ホラ、もう見えてきただろ」

 

「え?」

 

 

言われ、見つめる先

はるか向こう、確かに小さく村らしきものが見えて来ていた

“ま、まだ歩くけどな”と、そんな村を見つめながら馬良は笑う

 

 

「どっちにしろ、日が落ちるまでには着けるさ」

 

「そうみたいだね」

 

 

“ひとまずは、安心だ”と司馬懿

 

それから、しばらくした後

彼女の言うとおり、村には日が落ちるまでには着くことが出来た

小さな、本当に小さな村だった

簡素な造りの家々に、何処か温かみのようなものを感じる

“のどか”、という一言が

この村には、当てはまるのだろう

 

村に着いてすぐ、司馬懿はそう思った

 

 

 

「さて、あの“馬鹿妹”はいるかねぇ」

 

 

対して馬良は、溜め息と共にそう言って村の中を歩いていた

そんな彼女の言葉に、司馬懿は苦笑する

 

 

「馬鹿妹って・・・」

 

「はっ、アイツにはこれが一番しっくりくるんだよ」

 

 

“馬鹿妹以外に、思いつかないね”と馬良

司馬懿は、思わず吹き出してしまう

 

 

「けど、やっぱり酷いよ

どうして、それが一番しっくりくるのさ?」

 

「あ~、そいつは簡単な話さ

アイツは、本当に“馬鹿”なんだよ

ホラ、よく言うだろ?

“馬鹿と何とかは、高いところが好き”ってね」

 

「と、言うと?」

 

 

司馬懿の言葉

馬良はニッと笑い、半ば呆れたままこういうのだった

 

 

 

 

 

 

 

「アイツは・・・無類の、“山登り馬鹿”なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「んぉ?」

 

 

ふと、誰かに呼ばれたような

そんな気がした

しかし、少女はすぐにそれが気のせいだと気付き、すぐにまた視線をもとに戻す

眼下に広がった美しい風景へと、だ

 

 

「ん~~~~、やっぱ晴れた日は登山に限りますねぇ」

 

 

“眼福眼福”と、ニヤニヤしながら言う少女

何処か、怪しい

 

さて、そんな彼女

背は低く、しかしそんな小さな体に対し、その背に背負う荷物は大きなものだった

“一体何が入っているのだ?”と、思わず聞いてしまいそうなくらいである

緑色の髪はサイドで結んでおり、所謂ツインテールである

その頭には、使いこまれているのかボロボロの帽子が乗っかっていた

 

 

「はぁ~、やっぱいいなぁ山は

心が洗われるようですよぅ」

 

 

そう言って、深く息を吸い込む少女

やがて彼女は、大きく声をあげ叫んだ

 

 

 

 

「やっほぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

響く、声

段々と遠のいていく自身の声を聞き、少女はまたニヤニヤと笑みを浮かべていた

 

 

「あぁ・・・最高♪」

 

 

なんかもう、色々とヤバい子である

しかし、そんな幸福な時間の最中のことである

 

 

「んぉ?」

 

 

彼女はふたたび、何か、“人の声”のようなものが聴こえた気がした

しかも、今度は気のせいではないようだ

その証拠に、その“声”は段々と近づいてきているようなのだ

 

 

「誰でしょうか?」

 

 

“まさか、登山仲間?”と、何とも間の抜けたことを考える少女

そんな彼女のもとに、順調に近づいてくる“声”

 

やがて、少女のすぐ目の前

 

 

一人分の人影が、勢いよく飛出し・・・

 

 

 

 

 

「うっさいんじゃぼけぇぇぇぇええええええええ!!!!」

 

「ふんもっふうぅぅぅぅううう!!!??」

 

 

 

 

 

彼女のボディーに、見事な一撃を喰らわしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「すんませんでしたっ!!!!」

 

 

“ゴン”と、思い切り額を叩きつけ土下座をするのは紫色の髪の女性だ

そんな彼女の向かいには、先ほどの登山少女が、オロオロしながら立っている

 

 

「ウチ、ちょっと混乱しとって、頭ぐちゃぐちゃで

そんで、こんなこと・・・」

 

「え、えっと、ひとまず頭をあげてください!

その、私、全然気にしてませんからっ!!」

 

 

“確かに、凄く痛かったですけど”と少女

そんな少女の言葉に、彼女は安堵の息を漏らし顔をあげた

 

 

「そう言ってもらえると、助かるわ

せやけど、やっぱ悪いのはウチやから

ホンマ、すまんかったなぁ」

 

 

言って、彼女は立ち上がる

それからまた頭を下げ、申し訳なさそうに笑った

 

 

「ちょい、色々あってなぁ

イライラしててん

そしたらなんや、“やっほぉぉぉおお”とかって、なんや人をおちょくったような声が聞こえた気がしてな

それが一回ならまだしも、なんや何十回も聞こえてん

もう、気付いたらプッツンときてたみたいやな」

 

「そ、そうですか・・・それは、その、あはは」

 

 

“それ、私です”とは、少女は言えなかった

彼女はなんと、この場所でかれこれ何十回とそのように叫んでいたのだ

 

 

「それにしても、どうしたもんかなぁ・・・はぁ」

 

 

と、そんな少女の目の前

女性は、深く溜め息を吐いていた

何やら、本当に悩んでいるようである

そんな彼女の様子に、少女は“あの”と口を開いた

 

 

「何が、あったんですか

その、私でよければ力になりますけど・・・」

 

「ホンマか?

ん~、確かに一人で悩んでても始まらんやろしなぁ

それに、ウチ一人じゃ“此処が何処なのかすらわからへんし”」

 

 

“よっしゃ”と、彼女

彼女はそれから人懐っこい笑みを浮かべいった

 

 

「そんなら、すまんけど聞いてもらってええかな?」

 

「はい

何処まで力になれるかわかりませんが、お聞きしましょう」

 

 

と、少女

それから、少女は“あ、そういえば”と言葉を続ける

 

 

「まだ、名前を名乗っていませんでしたね

私の名前は“馬謖”、字は“幼常”と申します」

 

 

そう言って、少女・・・“馬謖”は深く頭を下げた

それを聞き、女性は“よろしゅうな”と笑った

 

 

「ウチは“張遼”、字は“文遠”や

よろしく頼むで、馬謖」

 

「はい、まかせ・・・」

 

 

と、彼女は言葉を止める

それから少し考えたあと、その口を開いた

 

 

「張遼・・・文遠?」

 

 

“あれ?”

思わず、彼女は言葉を漏らしてしまう

その原因は、女性の名前である

 

その名を、彼女は聞いたことがある気がしたのだ

しかし、すぐに思い出した

 

 

 

 

「ま、まさか・・・あの、“神速の張遼将軍”ですかっ!!?」

 

 

 

 

叫び、見つめる先

女性は・・・“張遼”は、何やら困ったように笑っていた

 

 

「ま、そういう呼ばれ方もしとるかな」

 

 

と、張遼

彼女はそのまま、馬謖の肩をポンと叩き

言葉を続けるのだった

 

 

 

 

「そんな、張遼将軍からのお願いや」

 

 

 

“ええかな?”と、張遼

馬謖は半分固まったまま、“は、はいっ!”と声をあげた

そんな彼女の姿に、思わず笑みを漏らしながら

 

彼女は、こう言った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「実はな、ウチ・・・“迷子”になってしまったみたいやねん」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「なんということだ・・・」

 

 

とある、山の中

呟き、頭を抱える女性の姿があった

銀色の短い髪をした、美しい女性だ

彼女の名は“華雄”

元董卓軍の将軍にして、今は唯一人の武人である

そんな彼女のすぐ傍には、他に二人の人物の姿があった

 

 

「あわわ、“華雄さん”・・・項垂れていても、仕方ありませんよ」

 

 

二人のうち、背の低い少女の言葉である

彼女の名は“鳳統”こと、真名を“雛里”である

 

 

「雛里の言う通りよ、華雄

ここで凹んでても、始まらないじゃない」

 

 

その隣、彼女の言葉に同意するよう口を開いた女性

彼女の名は“孫策”、真名を“雪蓮”である

 

そんな二人の言葉を聞き、華雄は項垂れた頭をあげ呟く

 

 

「しかし・・・」

 

「しかし、じゃないわよ!

ひとまずこの山を下りないことには、始まらないわよ」

 

 

そう言って、グイと華雄の手を引っ張る雪蓮

そんな二人の様子に、雛里は思わず苦笑してしまう

 

しかし・・・

 

 

 

「一刀さん・・・」

 

 

 

 

同時に、その表情は不安げであった

それは、雪蓮も同じである

華雄などは、尚酷い

 

そんな三人の見つめる先

其処は、所謂“崖っぷち”という感じであろうか

 

其処から見下ろせば、眼下には広く揺れる木々の群れが見えていた

 

 

 

「まさか・・・こんなとこから、“落ちてしまうなんて”」

 

 

 

呟き、雛里は泣きそうになったのを堪える

彼女の言葉の通りである

彼は・・・“一刀”は、ここから“落ちていってしまったのである”

そんな彼を助けようとして、張遼こと“霞”は先ほど降りれる場所を探しに駆け出していき

 

“見事に・・・はぐれてしまった”

 

 

 

「くっ・・・私の、私のせいだっ!」

 

 

と、そう言ったのは華雄である

その言葉に、“うっ”と雛里と雪蓮は声をあげ

そして、心底呆れたように溜め息を吐き出すのだった

 

彼女、華雄の言ったことは真実だったからだ

彼女がまさに、一刀落下の原因だったのである

 

その、原因とは・・・

 

 

 

 

 

 

 

「私が・・・私が、一刀の言う“おい、押すなよ!?絶対に押すなよ!?”をフリだと勘違いしなければっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

彼女はなんと・・・一刀の言葉を何を思ったのかフリだと勘違いし、“よしわかった、任せてくれと”言って自信満々な笑顔を浮かべたまま思い切り押してしまったのである

“え・・・?”と、一刀ですら状況を理解できていない様だった

 

無論、他の者も同じである

 

やがて、“マジカァァァァァアアアアアアアアア!!!??華雄さん、これまじかぁぁぁぁああああああああああああああ!!!?”と

そう叫びながら、彼は見事に落ちていったのだ

 

 

 

そして、今に至るのである

 

 

 

 

 

 

「くそ・・・私の、私のせいだっ!」

 

「いや、うん、そうね

今回ばかりは、擁護のしようがないくらいに華雄が悪いわね」

 

「あわわ」

 

 

なんていうか、まぁ、本当に残念な話である

しかしいつも悪ふざけばかりしていた一刀にも、多大な責任はあるのだが

今回ばかりは華雄が悪い

 

しかし、いつまでも此処にいても仕方のないことだ

 

 

「とにかく、山を下りるわよ

大丈夫・・・一刀なら、きっと無事だわ

ホラ、前にも建業の城壁から飛び降りた時に道具を使って何とか着地してたじゃない」

 

「あわわ

そうですね

霞さんともはぐれてしまいましたし、ひとまずこの場から動きましょう」

 

 

二人の言葉

華雄は半べそだった目をこすり、“うむ”と頷いた

 

 

「そうだな

早く、2人を見つけなければならないな・・・よし!」

 

 

“もう、大丈夫だ”と、華雄

その言葉を聞き、2人は苦笑する

この“単純さ”が、華雄の良いところなのだ

 

 

 

「そんじゃ、出発しましょう」

 

 

 

雪蓮はそう言って歩き出す

と、そんな彼女の視線の先

 

 

「あら?」

 

「ぁ・・・あぁ・・・・・・」

 

 

三人の気付かぬうち、そこには二人の少女が立っていたのだ

しかも、雪蓮はその二人の姿に見覚えがあった

 

一人は、何やら軍服のような白い衣服を身に纏った少女だ

もう一人は金色の長い髪をした、背の低い少女である

 

その、金髪の少女は口を大きく開けたまま声を漏らす

 

 

 

「ぉ・・・おぬしは・・・まさか・・・・・・」

 

「貴女・・・まさか・・・」

 

 

 

 

同時に、呟き

そして、そのまま言葉を失ってしまう

しかしいつまでも、そんな状態は続かない

 

やがて、その山々に響き渡る様な大きな叫び声が響き渡った

 

 

 

 

 

 

「袁術っ!!!??」

 

「ぴぃぃぃぃいいいいい!!!???

やややややややややっぱり、孫策なのじゃあぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

瞬間

その小さな少女のスカートの丁度股の部分が、一瞬にして濡れてしまった事などは

 

もはや、言うまでもないことである

 

 

 

 

 

 

 

かくして

見事にバラバラ、散らばる者達

奇しくもそれは、未だ乱れる荊州のようであった

 

さて、さてさて

彼は、彼女達は

この混迷渦巻く、荊州の大地にて

 

一体、何を成さんというのだろうか

 

 

 

 

 

“荊州編”

 

 

 

 

只今、開幕と相成ります・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

★あとがき★

 

本格的に、荊州編スタートとなります

この話は、新キャラから他勢力のキャラから、また三国が殆ど出てきたりと

建業、成都とは比べ物にならないくらい大変な話になってます

 

では、今回はここまでということで


 
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