乱世は終わった
長きにわたる戦乱の世は、三国が手を取り合う“三国同盟”という形で終幕を迎えたのだ
しかし、乱世が終わった今でも尚・・・苦しむ人々がいる
悲しみに身を震わせる人たちがいる
そんな中、立ち上がった者達がいた
彼らはこの大陸に颯爽と現れて、苦しむ人々の為各地を駆け回ったのだ
そんな彼らのことを、人々は・・・そして、彼ら自身はこう呼んでいた
その名は・・・
「「風紀委員(ジャッジメント)ですの!!」」
「じゃっ、じゃっじめんちょでしゅの!!」
≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫
第三章 女の子?男の子?・・・いいえ、男の娘です
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「もうね駄目、駄目だね。
全然駄目、全く駄目、もう話にならないよ雛りん」
「あわわっ、出だしから物凄い駄目出しです!!?」
晴天の下
溜め息と共に、一人の青年がダメ出しをしていた
彼の名前は“司馬懿”、字は“仲達”、時々“修造”
本名を“北郷一刀”である
三年前に天へと帰ったとされる“天の御遣い”だ
そんな彼にダメ出しをされているのは、先の尖った長い帽子を被った少女
“鳳統”、字は“士元”、真名を“雛里”
三国のうちの一つ、蜀の軍師だ
彼女が何故、ここまでダメ出しをされているのか?
それには、そんな深くもない理由があった
それは・・・
「なんで、こんな大事な台詞を噛んじゃうんだよ雛りん・・・」
これである
まぁ要するに、雛里の噛み癖が原因だったのだ
「決め台詞だよ?
俺たちの決め台詞なんだよ?
それを噛むなんて・・・はぁ~」
言って、大げさに頭を抱える一刀
その彼の様子に、雛里は申し訳なさそうに“あわわ”言っていた
「しかし一刀よ・・・決め台詞、だったか?
本当に、そのようなものが必要なのか?」
そんな中、一人の女性が首を傾げながら呟いた
彼女は“華雄”
一刀と雛里の、新たな旅のお供である
その彼女からの疑問の声に、一刀は顔をあげ“ああ”と答えた
「俺が“天の御遣い”であるってことを強く印象付けることが重要だからね
なるべく、皆の印象に残るような登場の仕方じゃないと」
「・・・そうなのか?」
「そうだよ♪」
言って、彼は笑いながら腕につけていた“団長”と書かれた腕章を見せる
因みに華雄は“生徒会長”、雛里は“庶務”と書かれた腕章をそれぞれ腕につけていた
この世界に“作品が違う!”“懐かしい作品ばっかり!”と突っ込んでくれる人がいないのが、残念でならない
「これを言うのと言わないのとでは、皆が俺に対して抱くインパクト・・・衝撃が違うんだよ」
「ふむ・・・なるほどな」
納得したように頷くと、一人黙々と先ほどのポーズを繰り返す華雄
そんな彼女の姿に苦笑しながら、雛里は彼女に続くようポーズと決め台詞を繰り返した
相変わらず、台詞はカミカミだったが
その光景を“シュールだなぁ”と他人事のように見つめながら、ふと一刀が空を見上げた瞬間だった
「ぉ・・・?」
ポツリと、一刀の頬に何かが当たったのだ
それが雨粒だと気付いたころには、もうサァサァと細かな雨が降り始めていた
「参ったな・・・雨が降ってきた
雛里ちゃん、こっから次の街までどのくらいあるかわかる?」
「あわわ、ここからだと一夜かかります」
「む、それは困ったな」
「だな・・・」
言って、彼は辺りをキョロキョロと見回した
それから冗談めいた笑みを浮かべながら、小さく呟きを漏らした
「ここらへんに、一晩泊めてくれるような家とかってないかなぁ」
「さ、流石にそれはないですよ」
その言葉に、雛里は苦笑しながら言った
彼女の言うとおり、現在三人のいる場所から街まではだいぶ距離がある
加えて三人がいるのは、だだっ広い高原だ
遠くには山が見えるくらいで、街のようなものは見えない
まさに、お手上げといった状態なのだ
「仕方ない、か
雨がしのげる様な場所を探して、そこで野宿しようか」
「そうですね」
そうして、2人が諦めたような声をあげた瞬間だった
華雄がハッと辺りを見回したのち、二人に向い声をかけてきたのは
「あそこに・・・何やら、家のようなモノが見えるな」
「「え・・・?」」
言われ、二人は華雄が見つめる先を見た
しかしそこにあるのは高い山だけで、家のようなものは見当たらない
「いや、何にもないみたいだけど」
「あわわ、そうですね」
「いや、確かにある
よく見なければわからないのだが・・・」
その言葉に、もう一度その山を見つめる一刀
しかし相変わらず、そこには緑生い茂る山しか見えない
だが、このままここにいるよりはマシなのかもしれない
そう思い、一刀は苦笑を浮かべる
「ま、どっちにしろ雨をしのげるとこまで行かなくちゃいけないんだし
とりあえず、行ってみよっか?」
「はい、そうですね」
「うむ」
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「ほ、本当にあったよ・・・」
唖然とした表情のまま、零れ出た言葉
彼が見つめる先・・・そこには、古ぼけた一軒の大きな屋敷が建っていたのだ
華雄の言葉通りだったというわけだ
これには一刀だけでなく、雛里も信じられないといった表情を浮かべている
そんな中、華雄はフッと笑みを浮かべ二人の肩を叩いたのだった
「なに、そこまで驚くことではない
武人として、当然の嗜みだ」
「そうなの・・・雛里ちゃん?」
「わ、私に聞かないでくださいよ」
そんなやり取りもそこそこに、三人は改めて目の前に建つ屋敷を見つめる
見た目はとても古く、一見すると誰も住んでいないようにも見える
しかしよく見ると、微かにだが中から灯りが漏れていた
「一応、人は住んでるみたいだね」
「どんな奴が住んでいるかはわからないがな」
言いながら、華雄は背中に背負った戦斧へと手をやる
万が一ここに住む者が山賊などだった場合、咄嗟に動けるようにだ
雛里も、二人の後ろに移動する
そんな二人の姿を見た後に、一刀はゆっくりと大きな扉へと歩み寄る
それから、“ドンドン”と扉を叩いた
「すいませ~ん!
ちょっと、いいですか~!」
瞬間、中から声が聞こえてきた
とても小さい声だった為何と言ったのかまでは聞き取れなかったが、とりあえずは自分たちのことに気づいたのだろう
そう思い、一刀はひとまずは安堵の息を吐きだした
「油断はするなよ、一刀」
「大丈夫、何かあったって華雄が守ってくれるんだろ?」
「う、うむ・・・まぁ、そうなんだが」
「なら、大丈夫さ♪
ね、雛里ちゃん」
「はい・・・ってあわわ、来たみたいですよ」
雛里の言葉に、三人の視線が眼前の扉へと集まった
その言葉の通り、コツコツと小さな足音が扉へと近づいてくるのがわかる
やがてその足音は、扉の向こう側で止まった
その直後・・・
「あ、あの・・・どちら様でしょうか?」
扉の向こうから聞こえてきた声に、三人は拍子抜けてしまう
弱弱しく、とてもか細い声だったからだ
「えっと、旅の者なのですが・・・突然の雨にどうしたものかと困っていた時、こちらの家が目に入ったもので
どうか一晩、泊めていただきたいと
無論、タダでとは言いません
少ないですが、お礼もさせていただきます」
「は、はぁ・・・」
一刀の言葉に、声の主は戸惑ったような声をあげる
その声を聞き、ため息と共に華雄は背にやった手をおろす
武人としての勘か何かだろうか・・・そのようなものが、彼女にこれ以上の警戒の必要はないと決めさせたのだろう
そんな彼女の様子を見て、一刀と雛里もホッと胸を撫で下ろす
しかし・・・こちらが警戒の必要がないとわかっても、相手からしたら別である
「あ、あの・・・その、知らない人は家に泊めちゃいけないって
小さい頃からお母さんに言われてて」
もっともな意見である
一刀は、“そりゃそうだ”と苦笑した
(仕方ないっちゃ、まぁ仕方ないけど
めちゃくちゃ警戒されてるなぁ)
(無理もありませんよ
乱世が終わったとはいえ、まだ山賊などの被害はありますから)
(ままならんなぁ・・・)
彼女の警戒ももっともである
雛里が言ったとおり乱世が終わったとはいえ、まだ問題は山積みだ
その一つが、未だに続く賊の被害
かくいう雛里と一刀も、出会った直後に遭遇している
そんな状況下で、警戒するのは当然のことだ
しかし・・・このままでは、結局野宿である
そう考えると、ここで引くのも些か不味い気がした
「何とかして、彼女の警戒を解くことはできないかな?」
「うむ・・・そうだな
いっそのこと、我が斧でこの扉を吹き飛ばs・・・」
「あわわ、駄目ですよ!?
やってることが、賊そのものですよ!?」
「ひっ・・・や、やっぱり山賊さんなんですか!?」
「そして、バッチリ聞かれてる!?
華雄謝れ!超謝れ!!」
「ぬぅ、すまん・・・その、あれだ
今のは出来心というやつでな、そ、そうだ!
普段は斧など使わずに、これくらいの扉なら素手でも楽々吹き飛ばせるのだぞ!?」
「どんなアピール!?
なんで今このタイミングで、そんなこと言っちゃうの!?」
「わわわわ!
ややややっぱり山賊さんだ!
ぜ、絶対に家には入れませんから!!」
「そして、警戒心が一気にマックスに!?」
ガバッと大げさに頭を抱え、一刀は叫んだ
華雄も必死に誤解を解こうと頑張っているのだろうが、全てが逆効果である
「どどど、どうする!?
いっそのこと、この扉をぶち破るか!?」
「華雄頼む、超頼む
頼むから、もう喋らないでくれ
しばらくの間、お口にチャックしててくれホント」
「あわわ、でもこれ以上は無駄な気がします
今ので、向こうの警戒はかなり高まってしまいましたし
あまり怖がらせるのも悪いので、今日は潔く野宿をしましょうか?」
「あ~、仕方ないか・・・このままだと、俺たち山賊さんになっちゃうし
ほら、行くぞ華雄」
「うぅ・・・すまない」
“ハァ”という溜め息と共に、のそのそと歩き出す三人
不意に見上げた空、雨はパラパラと三人に降り注いでいた
しかし、そこまで酷くはない
これならば、大した問題でもないだろう
「ま、たまにはこんな日もありだろ
旅をしてるんだから、毎日が快晴なんかじゃないさ」
そう思い、一刀がフッと微笑んだ直後だ・・・
ザアァァァァァァアアアアアアアアア・・・
「雛りん、俺疲れてるのかな?
なんか雨がものっそい降ってきて、パンツまでグジョグジョになってる幻を見てるんだけど・・・」
「それは、たぶん幻なんかじゃないと思います
私、寒くって体がガクガク震えてますから」
「そっか・・・そうだよな」
呟き、彼は“クッ”と笑う
それにつられ、雛里と華雄も笑みを浮かべていた
彼はそんな二人の肩を叩き、それからスッと視線を先ほどの屋敷の扉へと向ける
そして、その扉を指さして笑った
「華雄・・・“GO”」
「うおおおおぉぉぉぉおおおおおらあああぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」
「キャアァァァァアアアアアアアアアア!!!!??」
その直後
森の中、凄まじい轟音が響き渡ったのだった
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「ふぅ・・・まずは冷静になって、俺のお話を聞いてほしい」
「ん~~~~!
ん~~~、んんん~~!!」
「うん、わかってる
君が言いたいことは、重々承知してるつもりだ
とりあえず・・・」
そこまで言うと、彼・・・北郷一刀は大きく息を吐き出す
それからフッと微笑み、目の前に座る人物の肩を優しく叩いた
「俺たちは“怪しい者じゃないし、山賊でもない”
“君に危害を加えるつもりは一切ないよ”」
「あわわ
屋敷の扉をぶち壊した挙句、その家主を“縄で雁字搦めに縛った人が言っても全く説得力がありません”」
「うん、言っといてなんだけど“俺もそう思う”」
言って、彼は目の前に座る人物の姿に苦笑した
三人の目の前・・・そこに座る、縄で雁字搦めにされた挙句口に布を巻かれた一人の少女の姿を
彼女は首辺りまである茶色い髪をゆらゆらと揺らし、半べそをかきながらモゾモゾと縄から脱出しようと頑張っていた
そのため、つけていた片眼鏡はズレてしまい衣服も僅かに乱れている
「あ~、ホント落ち着いてくれ
俺たちは山賊なんかじゃないんだ
ただ雨露をしのげる場所が欲しかっただけなんだ
だから、決して君から何かを奪うとかそういうのは・・・」
「一刀~、こっちに食い物があるぞ~~~!」
「いや、もうね・・・何で毎回こうも見事なタイミングで、やらかしてくれるのかな彼女は」
“もしかして俺、とんでもない人仲間にしちゃった?”と、頭をおさえ割と本気で悩む一刀
そんな彼の姿を見て、雛里は苦笑いを浮かべていた
「とりあえず、口に巻いた布だけでも外しませんか?」
「そうだな、これはちょっとやりすぎだよな
やったのは俺だけどさ・・・」
「ですね・・・ノリノリでしたね、一刀さん」
「ああ、嘘みたいだろ?
俺・・・乱世を終わらせたって言われてる、天の御遣いなんだぜ?」
「あわわ、何でそこで泣きそうになってるんですか!?」
泣きそうになりながら、少女の口に巻かれた布を取り外す一刀
その瞬間、少女は泣きそうになりながらブンブンと首を横に振った
「お願いします、殺さないでください!
何でもします、何でもしますから!!」
「あ~~~、うん
ものっそい誤解なんだ、それは
俺たちは旅人であって、賊なんかじゃ断じてない」
「嘘です!
だって、どこからどう見ても“賊の手口”でしたよ!?」
「うぐぅ!?」
「は、反論できませんね・・・」
“どうしたら・・・”
そう考えていた雛里だったが、ふと何かを思いついたのか一刀の袖をクイッと引いた
それに気づき、彼は雛里の目線に合わせるようしゃがみ込んだ
「どうしたの?
何か思いついたの、雛里ちゃん」
「はい、もう正直一刀さんに頼るしかないかと・・・」
言いながら、雛里は彼の着ている外衣を指さした
そのことが何を意味しているのか理解したのか、一刀は“だよなぁ”と溜め息を吐きだす
「ま、仕方ないかぁ」
言って、彼は身に纏っていた外衣を脱いだ
その瞬間、目の前で泣きそうになっていた少女の表情が驚きに染まる
「ぇ・・・?」
「その様子だと、噂か何かで俺のことを聞いたことがあるみたいだね」
“よかった”と、彼はひとまず安堵の息を吐く
それから自身の胸元に手を添え、フッと微笑んで見せた
「俺の名前は北郷一刀
まぁ人によっては、俺のことを“天の御遣い”って呼ぶ人もいるけどね」
ーーーー†ーーーー
「どうぞ」
「あ、ありがとう・・・」
“コトン”と、目の前に置かれた湯呑
それを見つめたまま、一刀は“この今の状況”に頭を悩ませていた
「ど、どうしてこうなったんだ?」
「あわわ・・・私に聞かれてもわかりませんよぉ」
そのまま、隣に座る雛里へと問いかける一刀
しかしかくいう雛里も、この状況についていけないでいた
「よいしょ、と」
そんな中、件の少女は何食わぬ顔で座った
一刀の隣に、体をピッタリとつけながら
「どうぞ、僕なんかが淹れたお茶なんてそんなに美味しくないかもしれませんが
そ、それでもたっぷりと愛情が詰まってますから!」
「あ、ああ・・・いただくよ」
言いながら、彼は自身の目の前に置かれた湯呑を手に取った
そして、その湯呑に書かれた文字を見つめ苦笑する
“御遣いLOVE”
「あ、あのさ・・・これって、いったいどこで手に入れたのかな?」
「あ、これは最近魏国で買ってきたんです」
「そっか・・・あはは
誰だ、こんなもん作ったの」
などと、乾いた笑いを零し・・・彼は部屋を見渡した
それに伴い、頬を冷や汗が伝う
“魏国名物、御遣い饅頭”
“手乗り御遣い君”
“等身大・一刀君人形”
etc.etc.・・・
そう・・・この部屋は彼、天の御遣いに関する物で埋め尽くされていたのだ
「僕、感激しちゃいました
まさか、本物の御遣い様とこうしてご一緒にお茶を飲めるなんて」
「そ、そっか」
「その湯呑はもう洗えません・・・もう、毎日抱いて寝ます」
「げほっ、ごほっ!?」
「一刀さん、しっかりしてください!」
咽た一刀の背中を、雛里は慌ててさする
そんな彼の様子に気づくことなく、隣に座る少女は話を続けていた
「三年前・・・御遣い様が天に帰ってしまったと聞いた時は、本当に悲しかったです
でも、僕は信じてました!
御遣い様はきっと、この大陸に帰ってくるって!
そして今日、僕はまた御遣い様に出会うことが出来たんです!!」
「けほっ・・・ちょっと待って、“また”?」
それを聞いて、少女は“はい”と頷いた
「僕、御遣い様と一度実際にお話したことがあるんですよ?」
「ご、ごめん・・・その、覚えてないんだ」
そう申し訳なさそうに謝る一刀
そんな彼に、彼女は“いえ、仕方ないことです”と笑った
「御遣い様は、いつも困っている人をお助けしていましたから
それこそ、僕のことなんて覚えている暇もないくらいに・・・毎日、沢山の御方を助けてきたんですから」
言って、彼女は照れたように微笑む
その笑顔に一瞬“ドキッ”としてしまう一刀
彼はそれから、フッと微笑みを浮かべる
「なら、君の名前を教えてくれないかな?
そこまで想ってくれてる娘のことを何も知らないなんて、失礼だと思うしさ」
その言葉に、“はい”と笑う少女
彼女はそれから、自身の胸に手をあて彼を見つめた
「僕の名前は“馬鈞”、字は“徳衡”と言います
よろしくお願いします、御遣い様」
「へ~、馬鈞ちゃんっていうのk・・・え?」
ピタリと、一刀の言葉が止まった
その様子を不思議そうに見つめる馬鈞と雛里だったが、彼はその視線に気づくことなく自身の額をおさえ何やら考えているようだ
やがて、ようやく自身の中で何かが纏まったのか彼は恐る恐るといった様子で口を開く
「もしかして馬鈞ちゃんってさ・・・こう、絡繰りとかの発明が得意だったりする?」
「え、わわっ!?
どうして、ご存じなんですか!?」
彼女が慌てて言うが、それ以上に一刀は慌てている様子だった
何やら興奮した様子で、彼女を見つめ目を輝かせているのだ
「馬鈞ちゃんの名前は、俺の世界でも有名だからね
“魏の大発明家”ってさ」
「そ、そんな大発明家なんて!
それ以前に、僕なんかが魏国の臣下になれるはずないですし・・・」
「そんなことないって
きっと、すごい発明を沢山造ってきたんでしょ?
それに俺の世界では発明だけじゃなくって、“士気を12払ったら、無敵の攻城兵になるんだから”!」
「ええ!?
攻城兵!!?」
一刀が言ったことは、彼女には勿論通じない
そんなことすら気にならないほどに、彼は興奮していたのだ
「ねぇ、何か発明品を見せてよ」
「発明品、ですか
わ、わかりました・・・少し、待っていて下さいね」
そう言うと、彼女は少し名残惜しそうに席を立った
一刀は、その背中を笑顔で見送ったのだった
ーーーー†ーーーー
「コレ・・・最近、作ったものなんですけど」
そう言って彼女が机の上に置いたのは、一体の小さな人形だった
ただし、ただの人形ではない
というのも・・・
「・・・これ、俺じゃね?」
「あわわ、小さい一刀さんです!」
「うむ、一刀にソックリだな」
3人の言葉の通りである
目の前に置かれた小さな人形
それは、一刀ソックリの人形だったのだ
「これは、ここをこうすれば・・・こうなるんです」
「おぉ!」
「あわわ!?」
「む!?」
その人形の背中についているゼンマイ
彼女はソレを回し、手を離す
その瞬間、人形はカタカタと歩き出したのだ
「へぇ~、良く出来てるね」
「えへへ・・・さ、さらに他の機能があるんですよ?」
「なに!?
動くだけではないのか!?」
華雄の驚きの声に、馬鈞はコクンと頷く
そして、背中についていたボタンを押した
瞬間・・・
『おっぱい、おっぱい、おっぱい』
「あわわ!?
凄いでしゅ、喋りました!!」
『おっぱい、おっぱい』
「むぅ、素晴らしい出来だな!」
『おっぱ~~~~~~~~~~~い』
「いや、うん、出来とか以前に“どうしてよりにもよってそんな喋り方になったのか知りたいんだけど”・・・」
「僕なりに頑張ってみたんですけど、これ以外に思い浮かばなくて・・・」
『おっぱい、おっぱい、ホイホイおっぱい』
「何でさ!?
もっと他にいい言葉があるよね!?」
「で、でも他にも機能がついてるんですよ!?
ここの脇腹の辺りのとこを押せば、ズボンが脱げて“天の御遣いがこんにちわをする機能”が・・・」
「なにそれ、変態じゃん!?
俺の印象って、消えてからもそんな感じだったの!?」
『おっぱイエ~~~~~~~~イ♪』
「っていうか、これを止めてぇぇぇぇぇええええええ!!!!!??」
ーーーー†ーーーー
「と、まぁ・・・こんな感じなのですが」
「うん、まぁ・・・凄い発明ではあったよ
何ていうか、こう、非常に複雑な気持ちだけど」
「あ、ありがとうございます!」
言って、彼女は頭を下げる
しかし、その表情はどこか暗い
「でも、周りの人は皆・・・僕のことを気持ち悪いって
村にいた頃から、ずっと言われてて」
“だから僕は、ここに越してきたんです”と、彼女は力なく笑う
「一人なら、何も言われないから・・・」
「馬鈞ちゃん・・・」
呟き、一刀は立ち上がる
それから、彼は馬鈞の体をそっと抱きしめたのだ
「っ、みみみ御遣い様!?」
「君は凄いよ
他の誰が何と言おうと、俺はそう信じてる
うん、君はもっと自信を持っていいと思うな」
「自信・・・」
か細い声で呟く馬鈞
その頭を優しく撫でながら、彼は頷いた
「うん、君ならもっともっと凄いものを作れるはずだよ
それこそ、この大陸の歴史を塗り返してしまうほどの凄い発明がさ」
「御遣い様・・・」
「だからさ、頑張って
俺は、君のこと応援してるよ」
「はい!
僕、頑張ります!!」
言って、彼女は一刀の体をギュッと抱き返す
その行動に一瞬頬を赤くさせ、一刀は“はは”と笑いを零した
しかし、その余裕も・・・
「御遣い様、僕・・・御遣い様のこと、大好きです」
この一言で、吹き飛んでしまった
「は・・・え、ええぇぇえ!!?」
「御遣い様は覚えていませんが、僕はあの日からずっと・・・御遣い様のことが好きでした」
『ねぇ、君・・・どうかしたの?』
『わ、わわ・・・その、道に迷ってしまって・・・・・・』
『そっか、なら俺に任せてよ♪』
『わわわっ!?』
『あ、ごめん
ついいつものクセで手を・・・』
『いいいいいいえ、いいんです!!
僕、全然へっちゃらですから!!』
『あはは、ならよかったよ
それで、何処に行きたいの?』
『あの、その・・・ええっと』
「あの時の温かな手の感触を、僕は未だに覚えています
あの時の胸の高鳴りを、僕は未だに思い出せます
ホラ、今みたいな感じです」
「ぶっ!!?」
そう言って、彼女は一刀の手をとり自身の胸に当てる
瞬間、彼は思い切り噴き出した
その手を通じて、確かに彼女の胸の鼓動がはやいことを感じる
しかし・・・同時に何か、妙な違和感を彼は感じていた
(ん・・・?)
その違和感の正体が中々わからない
そんな中、彼のその手を握り締め馬鈞は上目使いのまま口を開いた
「どう、ですか?」
「どう・・・って、聞かれても」
馬鈞の言葉
彼は一度頬を軽く掻くと、少し困ったような表情を浮かべた
「俺・・・実はまだ、魏の皆のとこに顔を出してないんだ
そんな状態のまま他の誰かとっていうのは・・・やっぱり、良くないかなって」
「僕じゃ、ダメなんですか?」
「ん・・・やっぱ俺、魏の皆のことが好きだからさ」
「そう、ですか・・・」
言って、“シュン”と項垂れる馬鈞
だがすぐに、何か思いついたのか顔をあげた
「なら僕、魏に行きます!
いっぱい発明して頑張って、曹操様に認めてもらって・・・そしたら、そしたらまた御遣い様に告白します!!
僕、絶対に諦めませんから!
だって・・・御遣い様のことが、大好きだから!!」
「馬鈞ちゃん・・・」
その言葉に、彼は不覚にも胸をうたれた
まさか、こんなにも一途に想われていたとは想像もしていなかったのだ
だからこそ、彼は微笑みを浮かべ馬鈞の頭を撫でたのだ
「ああ、わかった
待ってるよ・・・馬鈞ちゃん」
「はい!」
馬鈞は笑顔で頷いた
そんな彼女の姿に、彼はまた笑みを浮かべていた
「あはは・・・まぁ君みたいな可愛い子に好きだって言われて、嫌な気分にはならないしね」
「そんな、可愛いなんて・・・僕、そんなこと初めて言われました」
「嘘?
こんな可愛いのに?」
「はい、いっつも村の皆にイジメられてたんです」
この一言に、一刀は“嘘だろ?”と驚いた
いったい何故?
しかしその疑問は、次の彼の一言で明らかになったのだ・・・
「“男のクセに、女みたいな恰好しやがって”って・・・」
ーーーー†ーーーー
「「「え・・・?」」」
馬鈞が放った一言
その言葉に一刀はもちろん、絡繰り一刀君で遊んでいた華雄と雛里までもが固まってしまう
「ご、ごめん馬鈞ちゃん
一つだけ、聞いてもいいかな?」
「はい、なんでしょうか?」
「君って、その・・・“男”、なの?」
一刀の一言
それに対し、馬鈞は頬を赤く染め・・・
「はい♪」
笑顔のまま、頷いたのだった
その瞬間、華雄と雛里は一刀を見つめ・・・小さく呟く
「「流石は魏の種馬」」
「この場面でその一言は止めて
俺も今、物凄い動揺してるから
もう、膝の震えが止まらないから」
その言葉の通り、彼は顔こそ笑っているが膝は震えていた
しかも、冷や汗が凄まじいのだ
そんな彼の様子も知らずに、彼女・・・改め、“彼”は笑顔で言ったのだ
「待っててくださいね、御遣い様♪
僕、絶対に御遣い様にもう一度この想いをお伝えしますから」
その笑顔が、あまりに綺麗で
その仕草が、あまりにも愛らしくて
「あ・・・あはは
ま・・・・・・待ってるよ」
彼は乾いた笑みを浮かべたまま、こう答えることしかできなかったのだった
“ああ、どうしてこうなった?”
・・・続く!
あとがき
懐かしの第三話です
個人的にとても好きな話で、ほとんど変更していません
キャラが増えることによって、様々な会話の応酬を繰り広げる、ある意味本当の意味で白き旅人が始まった、と
作者的に思える思い出深い話でもありました
キャラが増えることにより、疾走感みたいなのもついたのかなと、今改めて思います
このオリキャラも、新作の影響を受けなかったのでそのまま使います
では、次回またお会いしましょう
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今回、作者が個人的に気に入っている話です
殆ど、いじっていません
初見さんは、“恋姫?”と思いながら楽しんでください
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